FAQ ちょっと教えてコーナー(11)
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 ●時計の時刻あわせの時に秒針が止まりません。故障ですか?
秒針規制装置(ハック)が付いていないのですが、秒針は合わせられないのでしょうか。


秒針規制の無い時計の秒針合わせの方法と、筒かな(と言う部品)の関係について。

ちょっと古い時計や、一部の高級腕時計には、秒針規制(ハック)のないものがあります。

秒針規制とは、時刻合わせの時に、秒針をストップさせて、合わせたい時刻から秒針をスタートできる機構の事です。

秒針規制の無いものは、機械式の誤差を考えると不必要と考えているからです。
それでも、秒針規制が付いているモデルが出てきたのは、秒まで合わせたいと言うユーザーの声だったのでしょう。
また、精度検査を受ける際にも、有効だったかも知れません。

秒針規制のない時計の秒針の合わせ方を聞かれる事が良くあります。
そこで、方法をお教えしましょう。

1)時刻合わせが出来る様に、竜頭を引きます。
2)5分程度、ゆっくり戻します。
3)このとき、秒針が止まったり、逆回転したりするのがわかると思いますので、合わせたい秒に合わせましょう。
 秒針が止まる状態で、基準時刻の秒と合うまで、待っていれば良いと思います。
4)秒があったら、順回転で分を合わせます。
5)竜頭を戻します。

これで、秒針は、基準時刻と合います。
多少のズレは、勘弁してあげて下さい。その時計は、元々秒針を止める機構がないのですから。

でも、秒を気にされるのなら、普通のクウォーツ時計をお勧めします。
機械式時計ですと、上記のように合わせても、明日には誤差が出ています。
本当は、「秒針なんて、時計が動いている事が一目でわかる為の物」と解釈するのが一番良いと思っていますが。


それで、この方法でも、秒針が止まらない(合わせられない)事があります。

上記方法で、秒針が止まらなくても異常(故障)ではありません。
さして気にするほどのことでもないと思いますが、参考までに書きますと。

時計が正常に動いているのであれば、筒かなと言う部品がゆるいのだと思います。

筒かなというのは、ムーブメントの動力が針に伝わる力と、時間合わせの時にリューズを回して針を動かす力、この二つの力を適切に切り離す役目を負っています。

もし、針がムーブメントの動力にしっかりと固定されているとすると、リューズを引いて時間合わせをしたいときに針が自由に動かせなくなってしまいます。

かといって、針が完全に自由に遊んでしまうとムーブメントからの動力を正確に反映できなくなってしまいます。

そこで、筒かなは、ムーブメントからの動力を伝える車、
具体的に言いますと2番車の真(1時間で1回転する)に半固定されているのです。
極端にいえば、筒かなは2番真に摩擦で止まっているのです。

この摩擦が大きすぎると、時間合わせのときに針を自由に回そうとしてもスリップが重くなり使いにくくなります。
逆に摩擦が小さすぎると、2番真の回転を正確に反映できなくなり、針が時間に合わせて正常な動きをしなくなります。

そこで、技術者はこの筒かなを適切な絞め具合になるように調整するのですが、
どのようにするかと言いますと、小型のニッパーのような道具を使って、筒かなを左右から挟み込み、つぶすのです。

つぶしすぎてしまったら、90度角度を変えてもう一度違う方向から力を加えるとゆるみます。
これを繰り返して適正なつぶし具合をさがしてゆくのです。

金属のパイプのような形状をした筒かなは、このようにして調整されるのです。
この作業は、あまり何度もやりすぎると筒かな自体が見苦しく傷んできます。

そして、このつぶし具合の適正量は、
「ゆっくりと針を逆回ししたときに、テンプが止まる程度」とされています。

それで、秒針停止機能のついてない時計は、この性質を利用して秒まで時間合わせができるのです。

しかし、針を逆回ししすぎて、ガンギ車が激しく逆回転したりすると、今度はアンクルに変な傷がついてしまうこともあります。

筒かなも単なる金属の円柱パーツです。
温度変化や経年変化、あるいは油のまわり具合や素材の弾性などによって当初はちゃんと絞められたものでもほんの少しゆるむことはよくあります。

そのために秒合わせはできないのですが、だからと言って今すぐにそのためだけに修理に出す必要は、無いと思います。
出したところで、文字盤と針を外して筒かなをニッパーのような道具で、ちょっと絞めるだけの作業なのです。
次回のオーバーホールの際に、「ちょっと筒かながゆるんでいるようです、分解掃除のついでに見ておいてください」と言えば、すぐにそうしてくれるでしょう。

実際、新品の時計をみてもこのように秒針が止まらないケースは多々あります。
アンティークなどでも本当に多いと思います。
さらには、買った当初は秒針が止まっていたのだけど、使っているうちに止まらなくなった。というケースもあります。
また、オーバーホールから戻ってきた直後の時計でも秒針が止まらないということもあります。

そういうわけで、これはそんなに気にする問題ではないのです。

わたしの時計がそのような状態であったとしても、気にせず使い続けます。
そして次回のオーバーホールの際にその旨サービスセンターに伝え問題を解決します。

そういうわけで、その秒針停止が出来ない問題があっても、お気になさる事ではないと思います。
それでもやはりお気になるようでしたら、サービスセンターにご相談されるのもまたよろしいかと思います。

余談ですが、私は、2針の手巻きが良いと思い始めています。
機械がとてもシンプルで、動力のロスが非常に少ないからです。それに部品が少ないので、故障の確率も少ないと思います。

2針なら、秒を気にしたくても、どうにもなりません。
どうにもならないから良いのです。秒針が付いていれば、やっぱり気になるのは仕方がない話だと思います。

現代社会に生きていると、秒は必需品の様に思えてしまいます。
ですが、本当に秒の世界で生きていますか?そんなに、1秒を争ってるんですか。
私は、分の世界で十分だと感じています。
せかされて、一生懸命早く進もうとする秒針の様な人生より、ゆったりと風の匂いの感じられる様な、そんな分針の様な人生が良いな、なんて思い始めています。

残念ながら、スモセコは持っているのですが、2針はありません。
そっと、時計を耳に近づけて、「お、動いているな!」って感じられたら良いですね。

まだまだ、迷いもあります。
人生のまだ4割程度の道中で。

本文は、WUR上森さんのご協力を頂き、作成致しました。


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